Book workshop at 日本メディア学会

November 17, 2022

Saturday morning 11/19 I will participate in a workshop on The Immersive Enclosure as part of the Fall conference of the Japan Association for Media, Journalism, and Communication Studies (JAMS, 日本メディア学会), the largest professional organization of media scholars in Japan. Professor Yoshitaka Mouri from Tokyo University of the Arts will serve as chair.

The abstract from the conference program cogently introduces the book's central concerns:

 

「没入的囲い込み」

―日本のヴァーチャル・リアリティを考える―

司会者:毛利嘉孝(東京藝術大学) 問題提起者:Paul Roquet(Massachusetts Institute of Technology)

【キーワード】ヴァーチャル・リアリティ(VR)、没入感、囲い込み、権力、アンビエン ト・メディア

 

ヴァーチャル・リアリティ(Virtual Reality、以下 VR)は、インターネットや携帯端 末と並んできわめて現代的で重要なメディア・テクノロジーである。にもかかわらず、こ れまでの VR の研究の多くは経済や産業、あるいは技術的な分析に留まっており、とりわ け(批判的)メディア研究の中で扱われることは少なかった。2022 年にコロンビア大学出 版から刊行されたポール・ロケ Paul Roquet の『没入的囲い込み:日本のヴァーチャル・ リアリティ The Immersive Enclosure: Virtual Reality in Japan』は、そうした中で VR に対する批判的メディア研究の数少ない先駆的な成果である。

このワークショップでは、ポール・ロケを問題提起者に迎え、『没入的囲い込み』の議 論を手がかりに特に日本の VR というメディアを、日本の固有の(サブ)カルチャー、権 力と空間、新しい資本主義の様式、そしてジェンダーやセクシュアリティ、アイデンティ ティの問題を分析することを通じて分析、議論したい。

2010 年代中頃から VR の第 2 次ブームが語られるようになった。特に高性能のゲーム用 のヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)が次々と発表された 2016 年は VR 元年と呼ば 25 れ、ゲーム、エンターテインメント業界を中心に新しいメディア産業として大きな期待が 寄せられた。しかし、この VR ブームと呼ばれる現象は、投機的傾向が強くなりすぎたた めに早くも 2017 年には減速する。産業全体としては依然として期待は高いものの、HMD を 中心として VR メディア市場は普及が停滞していると一般には受け取られている。

けれども、こうした評価と裏腹にこの時期に日本では独自の VR 文化が発達してきた。 2010 年代の中頃から特にアニメやゲーム、そしてアイドルなど日本独自のいわゆる「オタ ク文化」と結びつきながら独自のエンターテイメント産業を作り出している。「バーチャ ル・アイドル」や「バーチャル YouTuber(V-Tuber)」の流行はその一つの例だが、こう した「バーチャル」な日本文化は、HMD という VR 技術にとどまらず、他の VR /デジタル /メディア技術と結びつきながらゆっくりではあるが確実に、そして一部では熱狂的な支 持を伴って広がりを見せているのである。

このような日本の VR の状況をどのように理解すればいいのだろうか。現在の VR は私た ちの生活や文化、社会や経済にどのような影響を与えるのだろうか。そして、日本の VR 文化にその文化的特殊性を見出すことができるのだろうか。

ここでまず検討したいのは、日本型 VR の特殊性である。ロケは、軍事技術として発達 したアメリカの VR と比較して、日本の VR が自己を外界から切り離して、VR メディア空間 の中に「閉じ込める enclose」ことを重要視していると指摘する。こうした議論は、現代 日本の特徴的な「ひとり空間」(南後由和、2018 年)の文脈で考えることができるだろ う。HMD によって視界を完全に遮断された VR 空間は究極の「ひとり空間」であると同時 に、無制限の移動が可能な空間である。日本型 VR が身体と空間の編成にどのような影響 を与えるのかを議論したい。

第 2 に、VR がもたらす空間と労働、資本主義の変容、そしてネットワーク化を通じた管 理や監視の問題を考えたい。とりわけ産業界において VR 技術は、医療や教育、さらには 建設業など危険の多い職場におけるテレワークやリモートワークのプラットフォームとし ての期待が高い。たとえば、原発事故処理の労働者不足に対して VR 技術の応用が検討さ れるなど、さまざまな産業で労働力のデジタル技術による代替が議論されている。このこ とは何を意味しているのだろうか。VR のプラットフォーム化は、どのような資本主義の形 式の変化をもたらすのだろうか。

3 番目の議論は、VR 空間における権力、とりわけジェンダーやセクシュアリティの問題 である。先に挙げたアニメやゲーム、(バーチャル)アイドルの消費やファン文化におい て、そのジェンダー的な権力関係の不均衡は顕著である。その一方で、VR は、しばしばユ ーザーの身体性を解放し、ジェンダーやセクシュアリティを作り上げる。VR のもつ「没入 的」な「囲い込み」という特性から、その権力の特性を議論したい。

こうした VR 空間の権力を理解するための一つのキーワードは「アンビエント」であ る。「アンビエント」は「アンビエント・ミュージック」のように音楽などの芸術領域で 用いられる美学的・様式的な用語だが、すでにポール・ロケは、前著『アンビエント・メ 26 ディア:自己の日本的空気 Ambient Media: Japanese Atmospheres of Self』(ミネソタ 大学出版、2016)の中で、この語が、日本の社会や文化、そして自己アイデンティティの 特徴づける概念であることを指摘している。

ロケは、新著でその議論を発展させ「アンビエントな権力」を駆動させるインターフェ イスとして VR を捉え、それがどのように人々の知覚を再編成するのかを分析している。 このワークショップでは、「アンビエント・メディア」としての VR を批判的に検討しつ つ、その権力のあり方について議論したい。